匠たちの手仕事 VOL.8

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取材先:加藤帯裁縫所  加藤 史郎
「こんちはー!」
スタスタと威勢のいい足音を響かせて、風呂敷包みを抱えて来る加藤さん。指には金の指貫き、サンダル履きの素足が定番スタイル。真冬に皆がモコモコウールの靴下を履こうと変わらない。
「冷えたりしないのー?」
「全然!」
そう笑って、ちゃちゃっと用事を済ませ、ピュッと帰られる。声が大きく、元気がないところは見たことがない。とにかくテンポがイイ加藤さん。自宅兼仕事場を杉並区西荻窪に訪ねました。

肝心なのは「地の目」

JR総武線 西荻窪の駅から徒歩10分足らず、住宅街の一軒家。玄関を入ってすぐ脇、ぐるりと作業道具に囲まれた和室が加藤さんの仕事場です。お邪魔しますーと入ると、部屋との仕切りに付けられた応対窓口から、にこりと顔を出して迎えてくれました。
この日は絽の袋帯を仕上げるとのこと。

長年の勘で、全身を使って作業する加藤さん。数年に一度は買い替えているというアイロンは、十数台目。
長年の勘で、全身を使って作業する加藤さん。数年に一度は買い替えているというアイロンは、十数台目。

「何より重要なのはね、一番最初。まずシミをチェックして寸法を確認したら、あとはとにかく地の目を整えること。袋帯はまず裏返してアイロンあてるんだけど、両端が上手く縫われているものでなかったりすると、なかなか整わなくて。それだけで1時間くらいかかったりする。でもここで手を抜くわけにはいかない。特に今日の絽みたいに横線入った生地なんて、歪んでいたら目立つからね」そう話すと、早速作業に入りました。
作業台の目の前には天井から吊るされたアイロンが2台と、しつけ用の糸 シロモ。ぐるりと帯地を裏返し作業台に広げると、立膝態勢に。ばっと片足を帯上に乗せてぐっと押さえると、布端と中央辺りでは手加減を変えながらアイロンを滑らせます。見た目以上の力仕。
袋帯は、芯地を入れてかがりますが、仕上がった時にどこかが余ったりツレたりしないように表地と芯地、表側と裏側のバランスをとるのがポイント。昔は芯地の種類も素材、厚さ、色味の違うものが豊富にありましたが、いまは限られた中で素材、厚み、堅さの合うものを選びます。
秋櫻舎では、古いけど柄のいい着物や羽織、幅が狭かったり、擦れてしまったもの、丈が足りないものなどで困ったた時も加藤さん頼み。現物をお見せして相談すれば「わかった!ちょっと任してみて!」と頼もしい言葉。数週間すれば、白紙の帯テープでピシッとしつけされた帯が仕上がってきます。その気持ちがいいほどの筋目の通った美しさは、アイロンの技も一因、毎度見惚れてしまいます。

帯仕立て一筋、53年

愛知県東海市出身の加藤さん。中学校を卒業すると、帯の仕立ての仕事をしていた叔父さんを頼って、その師匠が経営する帯専門の仕立て屋に就職を決めて上京しました。
「実は配達の仕事ができるって聞いて決めたんだよ。車が大好きだったから、運転ができると思って喜んで。けど、そうじゃかなったんだよねー(笑)」
当時は男子が30人、女子⒛人ほどが住み込みで修業していた時代。担当を割り振られた小売店や問屋、百貨店得など意先へ自転車でかけまわりながら、数か月間は帯芯の余りでひたすら運針の修行。そのうち、徐々に簡単な帯からお手伝いが始まりました。朝7時から夜10時まで仕事に追われ、仕事が終われば食事とお風呂であとは寝るだけだったという集団生活。それでも、しっかりした親方の元、辞める人は一人もいなかったそうです。
10年の修行期間を経てからは、御礼奉公をしながら独立。まずは高円寺にアパートを借りましたが、師匠に「とにかく家を持て」と言われ、今の西荻で家を建てました。そのころには、同じ職場にいた女性と結婚。二人で住み込みの弟子も取りながら、ついてくれたお客様から徐々に仕事が広がって、徐々に自信もついていきました。

物の縫い方とは違って板場の台の縁に布端を合わせたら針を持つ右手は動かさない。布を持った左手のほうだけ動かします。布を浮かせないようにしながら、1寸巾に8~10目ほどの細かさで縫い進みます。

それから50年以上。金婚式も過ぎ、優しい奥様と二人暮らし。現在は自分のペースで出来る範囲の仕事をされています。最近、少なくなってしまった仕事仲間と会えると「お互い、よう、針の尻押してきたなー(よく針を押して縫ってきた)、と言いあって笑ってるんだよ。こんなに長く続けられるとは思ってなかったけどね」という加藤さん。関東でも数えられるほどしかいなくなったという帯の仕立て職人として、いまもまだ日々工夫の道にあるといいます。
「昔は量が多すぎて、縫っても縫っても仕事が終わらなくて、大変だった。でもどんなものが来ても1本ずつ丁寧に仕上げ、100点にはならなくても、なるべく満点近くに仕上げようとやっていました。この量をこなしてきたから、自信もついたし『キレイに出来てますね』と褒められたら、本当にうれしいです」
まだまだ上を目指して日々「針の尻を押す」高橋さん、これからもよろしくお願いいたします。

ビフォア:前帯がスレてしまっていた絽の染帯。

アフター:みごとに再生されました。

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